35歳の若さで『今村章太郎公認会計士・税理士事務所』の代表を務める今村章太郎さんと空手の出会いは、監査法人に勤めていた2010年にさかのぼる。当時、仕事と並行して通っていたビジネススクール(キャリアコンサルティング主催)は新極真会と親交があり、企画の一環として道場に体験入門することとなった。オープンしたばかりの品川小井道場(当時)で初めて空手を経験した今村さんは、すぐにその魅力に惹かれることとなる。
「その時は基本稽古とミット打ちをやったんですけど、うまくミットが蹴れた時の快感や、体が“ハマった”時の感覚がおもしろかったです。もともと体を動かすのが好きだったこともあり、すぐに入門しました。小井師範は一人ひとりのレベルに合った教え方をされていて、すごくわかりやすかったです。明るく盛り上げていただけるのでやっていて楽しかったですし、もちろん今もすごく楽しいです」
そう語る今村さんの笑顔からは、どんな言葉よりも雄弁に空手や小井道場への愛が伝わってくる。中学時代は野球部、高校時代はラグビー部に所属。もう一度何かスポーツを始めたいと思っていた矢先、28歳で出会ったのが空手だった。ただ、「まさか自分が格闘技をやるとは思わなかった」と振り返る今村さんにとって、未知の世界へ飛び込む決め手となったのは、小井師範から伝わってくる「人間力」だったという。体験入門の際、小井師範が話した内容が今も記憶に残っている。「小井師範から最初に教えていただいたのが、『押忍』という言葉の意味でした。気持ちはつねに押して前向きに。それでいて、一歩引いて忍ぶ謙虚な姿勢を持つ。つまり、心の在り方ですよね。なるほどな、奥が深い世界だなと感じました。私が通っていたスクールは人間力を高めることがテーマだったので、それもあって小井師範はそういうお話をされたのかなと思います」
空手の真髄に触れ、道場で人間力を養った今村さんは、2012年に税理士事務所に転職。約4年間の実務経験を積み、2016年に独立した。多忙な日々の中、道場には週1回通うのがやっとという状況。3年前に結婚して子どもが生まれたこともあり、満足に顔を出せない時期もあった。それでも空手を続けられたのはなぜだったのか。
「おそらく、小井師範のもとでなければここまで続いていなかったと思います。さすがに1ヵ月半くらい期間が開いてしまった時は、道場へ行くことに引け目を感じました。でも、小井師範はそんなことを全然気にされないんです。『過去は忘れて先のことを考えましょう』とおっしゃっていただいて、すごく気持ちが楽になりました」
今村さんにとって道場とは「自分をリフレッシュできる場所」。机に向かうことが多い仕事柄、「空手をやらないと肩もこりますし、溜まったフラストレーションを道場で発散することでバランスが取れています」と語る。また、「普段、仕事では出会えないような職種の方とお話ができる環境も、すごく魅力的だと思います」と、道場でできた仲間の存在も今村さんの支えとなっている。現在、黄帯を締める今村さんだが、視線の先には大きな目標があった。「同時期に入門された方はどんどん上の帯にいっているんですけど、私の場合は細く長く続けていって、その先に黒帯があればいいなという感じですね。独立して自分で時間をコントロールできるようになった分、また定期的に道場へ通えるようになってきたので、機会を見て試合に出たいという気持ちもあります」
この取材が行なわれたのは、今村さんのように対個人事業者がメインの税理士がもっとも忙しくなる、確定申告を控えた2月上旬。それでも「税金やお金について不安がある方も多いと思いますが、そういった方にわかりやすく説明して理解をしてもらえると、だんだん安心してお客様が笑顔になるんです。ひとりでも多くの方を笑顔にしたいですね」と語る今村さんの表情は、イキイキとしていた。
家族を養い、社員を養い、顧客を笑顔にする。柔らかい雰囲気の中に信念が垣間見える35歳からは、たしかな人間力がにじみ出ているように感じた。それはもしかすると、かつて今村さんが小井師範に感じたものと似ているのかもしれない。